2019年に策定された「公正なM&Aの在り方に関する指針」には、
(a) M&Aを行わなくても実現可能な価値 と (b) M&Aを行わなければ実現できない価値
という価値に関する言葉がでてきます。これらが、M&A及び会計目的において一般的に用いられる価値の用語とどのように整合できるのかを、考えてみます。
まず(a)については、M&Aにおける価値の一般的な用語である「スタンドアローンバリュー」と同義と考えます。評価対象となる会社単独でどれくらいの価値を出せるのか、を計算しているためです。そして、(b)のM&Aを行わなければ実現できない価値ですが、これがM&Aにおける価値の一般的な用語である「シナジー効果」と同義と考えます。
ここで、この (b)部分の中で「一般株主が享受すべき正当な利益」(同指針より抜粋)を確保しようとするのが同指針の目的なわけですが、少なくとも会計の価値用語である「公正価値」までは、価値は増加しうると考えます。理由は、他の買収者であればその値段まで出すと考えられる価値が「公正価値」だからです(M&Aと会計の価値用語の関係については、コラム「M&Aにおける価値の用語と、会計目的で使用される価値の用語の関係」をご参照ください)。
一方で、固有のシナジー部分についてはどこまで一般株主に渡すかは案件次第となり、結局通常の第三者間のM&A同様、取引に十分な参加者がいるのであれば、理論的には取引価額は公正価値以上バイヤーズバリュー未満ということになります。
また、TOBの際にフェアネスオピニオンを書くことがありますが、その際の価値は、同指針にも記載のある通り、(a) M&Aを行わなくても実現可能な価値 = スタンドアローンバリュー を前提とした計算となることが多いため、市場参加者シナジーが存在する場合は、理論的には会計目的の公正価値よりも小さくなると考えられます。